1983年に胃に存在する細菌が発見されました(オーストラリアの研究者:ロビン·ウォレン、バリーマーシャル)。 2人の研究者は、2005年ノーベル生理学·医学賞を受賞しました。当初この菌と胃十二指腸潰瘍、胃癌との関連ははっきりしませんでしたが、その後の研究によって徐々にこれらとの関連が明らかになってきました。
その結果、ピロリ菌の除菌治療が、胃・十二指腸潰瘍をもっている人(2000年11月)、その後慢性胃炎の人(2013年2月)で保険適用となりました。
この2013年を「胃がん撲滅元年」と名付け、ピロリ菌陽性者に除菌を勧め、胃がんの死亡を減らす取組が行われており、すでに多くの方が除菌治療を受けておられます。
2014年世界保健機構は、胃癌の8割はピロリ菌感染が原因とみなしていると報告しています。
これを受け日本ヘリコバクター学会は2016年ガイドラインで中学生以降では、早期の除菌が望ましいと提言しています。すでに自治体によっては、将来胃癌になるひとを減らすのを目標に中学生の検診(尿検査で行います)を導入、除菌治療を行っているところもあります。これは佐賀県佐賀市でも実施されています。
佐賀市の中学生の感染率は5.7%と報告されています (2016年11月16日朝日新聞),胃,十二指腸潰瘍の発生が急激に減少したように、胃がん発生の減少も今後明らかになってくると思われます。 すでにご存知のようにピロリ菌の感染は、80%近くが家族内感染と考えられ ています。それも幼少時5歳以下が感染時期であることが明らかになってきました。
残り20%の感染経路ははっきりしていません。
大人になってピロリ菌の曝露をうけると、一時的に感染し、急性胃炎を起こしその後菌が排除されて持続感染することは少ないと言われています。 幼少期に感染した場合は、慢性胃炎を起こし、その後人によって潰瘍・癌を起こしてきます。
ピロリ菌感染率は、20年前頃は、60歳以上は60%を超えていました。
しかし、その後年々感染率は低下し、2010年の統計では、20歳以下では約10%、年齢とともに徐々に感染率は高くなり、50歳代で約40%となります。
今後さらに感染率の低下が予想されています。 ピロリ菌が感染しているかの検査方法は、数種類あり、主治医の先生と相談の上検査を受けてください。
除菌治療は、抗生剤2種類および胃薬1種類を1週間服用します。除菌率は90%前後です。1回で除菌できなかった場合は抗生剤の種類を変え再除菌治療ができます。2回までは保険適用です。2回目の除菌率は98%と報告されており殆どの人が除菌できるようになりました。 ピロリ菌除菌後の問題として、ピロリ菌に関連しない胃癌や食道癌の発生があります。
また逆流性食道炎の悪化、肥満などの生活習慣病の出現が報告されています。除菌後も定期的な胃の検査および生活習慣病の出現に注意が必要です。
2017年4月 内科 中尾 英人