皮脂欠乏性湿疹
ニュー琴海病院皮膚科 廣瀬寮二
多くの人が冬季になると皮膚の乾燥と痒みを訴えて来院されます。ここでは、そうした皮膚のトラブルについて解説します。
皮膚は体の最外側に位置するため、外界の変化を直接受けることになり、とくに気温や湿度により変化を生じます。
皮膚の表面は表皮という細胞群で構成されており、その下に真皮、さらにその下に皮下脂肪織があります。表皮の一番下に始まる基底細胞は、新陳代謝により徐々に外側に向かい移動してゆき、最終的には核を消失し、角質細胞となります。
つまり表皮の細胞のなれの果てとして、角質細胞が厚く積み重なり、角層となるのです。いわゆる垢の状態です。
角層は自然に少しずつ脱落してゆき、一定の厚みを保ち続けます。大部分の皮膚では角層は10層程度の厚みですが、手掌や足底は実に30層から50層にも厚くなり、物をつかんだり歩くときのスポンジの役割を果たします。1個の角質細胞は同一サイズの薄い平べったい板状であり、レンガを積み重ねたような互い違いの形態をとり層状を成しています。
角質細胞間にはわずかな隙間があり、そこにはセラミドなどの接着物質が存在することにより互いに密着しており、外界の異物は表皮から容易には入り込めない仕組みとなっています。
このような防御システムにより、水虫の白癬菌や化膿を引き起こす細菌、また接触皮膚炎の原因となるかぶれの原因物質の侵入を防いでいます。
ところが皮膚が老化すると、セラミドなどが減少し、このレンガ状の積み重なりが乱雑となり、隙間が広がってきます。そのために外観上は皮膚表面に乾燥が生じ、毛羽立ったようになり、鱗屑という脱落しきれない角質が中途半端に付着した状態を生じます。いわゆる「粉がふいたような」と表現される症状です。
このような乾燥性皮膚は、加齢による変化として普通に見られる症状であり、とくに湿度の低下する冬季には悪化することになります。その結果として、湿疹性変化が生じるとともに痒みも伴うようになります。
タイトルにある「皮脂欠乏性湿疹」とはこのような状態の皮膚症状を指しており、脂分が欠乏というより減少していると考えるのが適切です。まだ湿疹性変化までは生じていないときは、いわゆる乾燥肌の状態であり、単に「乾皮症」とも言われます。
そのような症状を軽減させるための対策を考える必要性が生じます。
老化による皮膚の乾燥に加え、冬季の湿度の低下により生じたのですから、まず皮膚に適度の湿度を与えるために保湿剤を、秋口から翌年の春先まで使うのがよいでしょう。ときには皮膚の乾燥の強い方は夏季でも保湿剤を必要とする場合があります。
さらに進行し、痒みや赤みなどの湿疹症状が出現したら、保湿剤に加え、副腎皮質ホルモン剤の外用薬を必要に応じて加えると症状は軽快します。つまり「治る」ということではなく、症状に応じて「コントロール」をする皮膚疾患ということになります。
当院では冬季にこの症状で受診される方がたくさんおられ、多くは50歳以上の高齢の方です。すでに湿疹症状を伴い受診されることが多いため、当院では保湿剤+副腎皮質ホルモン剤の混合軟膏を用い治療しており、高い効果が得られています。
なお、強い痒みを伴う場合は、必要な期間だけ抗ヒスタミン剤という痒み止めの内服薬を併用することもあります。
さらにもうひとつ、とても重要な注意点があります。それは、乾燥を悪化させないためには、皮膚を擦ってはいけないということです。
症状の強い人のうち、入浴時にタオルで強く擦っているという方がとても多いのです。
ときにナイオンタオルやタワシを使い角質を擦り取ろうとしている方もおられます。前述したように角層は大切な皮膚の外界からの防御システムであり、不要な分は自分から脱落しているわけで、無理に取り除くと防御できなくなってしまいます。
体の汚れをとるには、手のひらだけでそっと洗えば十分です。タオルは不要です。
何か使いたいなら、柔らかいスポンジでいいでしょう。「垢すり」と言われる皮膚表面を強く擦るための施設があるようですが、本来必要のないことであり、とくに皮膚が老化していて薄くなっている高齢者では、むしろ危険な行為です。
皮脂欠乏性湿疹は決して稀な疾患ではなく、高齢の方は程度の差はあれ、冬季にはみんな罹っている症状です。だからこそ、保湿剤を主体とした外用薬を上手に使用し、冬の乾燥を乗り切ってください。