「フレイル」ってご存じですか?
・フレイルとは
フレイルとは、一言でいうと「加齢によって心身が弱っている状態」のことをいいます。
フレイルは「健康な状態」と「介護が必要な状態」の中間の状態と位置付けられ、多くの方はフレイルを経て要介護状態へ進むと考えられています。
「年老いたらいずれ介護のお世話になるのだろうなあ」と思っている方もいらっしゃるかも知れませんが、実はフレイルに早く気付き正しく対処することで介護が必要な状態になるのを回避できる可能性があるのです。
フレイルになると心身のおとろえによってさまざまなストレスに対する抵抗力が大きく落ちてしまった状態となってしまいます。そうなると、たとえば肺炎を発症しやすくなったり、転倒し打撲や骨折をしやすくなったりします。これらが原因となって入院してしまったら、さらにフレイルが悪化しそのまま寝たきりになってしまうことも少なくありません。
フレイルは加齢によるさまざまなおとろえが原因となります。「加齢によるさまざまなおとろえ」とは、実は体のおとろえだけではなく、心のおとろえ、社会生活のおとろえなど多面的なものです。そのため、身体的フレイル、精神心理的(認知的)フレイル、社会的フレイルと分類して論じられることもあります。
さらに「フレイルサイクル」と呼ばれる悪循環も知られています。
例えば、「加齢により筋力が低下する」→「基礎代謝量が落ちてエネルギー消費量が減る」→「食欲が低下する」→「低栄養となる」→「さらに筋力が低下する」といった具合で、ますますフレイルが悪化するということになります。フレイル対策ではこの悪循環を断ち切ることが重要です。
フレイルかどうかを判断する基準にはさまざまなものがあり、統一したものはありませんが、代表的なものとして下記の基準をご紹介します(J-CHS基準)。
① 6か月で2~3kg以上の(意図しない)体重減少。
② 握力が男性は26kg未満、女性は18kg未満。
③ (ここ2週間)訳もなく疲れたような感じがする。
④ 歩行速度が1.0m/秒未満。(筆者注:つまり10m歩くのに10秒以上かかる)
⑤ ・軽い運動や体操をしていますか?・定期的な運動やスポーツをしていますか?
上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答。
このうち1〜2つ該当する場合は、前段階の「プレフレイル」。3項目以上当てはまる場合は「フレイル」というふうに判断されます。
・フレイルの予防について
ここからはフレイルの予防について考えてみます。
① バランスの良い食事
フレイルのもっとも大きな原因とされているのが「低栄養」です。栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。なかでも筋肉作りに欠かせないタンパク質は筋力のおとろえをふせぐために重要で、やや多めにとるのがよいでしょう。目安として1日に(標準)体重1kgあたり1g以上のタンパク質を摂取することが推奨されています。また、できるだけ主食、主菜、副菜をしっかり摂るようにすることもバランスの良い食事のために重要です。
② 適度な運動
高齢になると、だれでも筋力は少しずつおとろえていきます。筋力のおとろえは「フレイルサイクル」によりフレイルの原因、そして悪化につながります。筋力を維持するために日ごろから適度な運動を行うようにしましょう。運動すると筋力がつき、またおなかも減り食欲も出て低栄養の改善も期待されるため、フレイル対策に最も効果的と思われます。
運動は継続的に行うことがとても大切ですので、自分にあった続けやすい運動を考えてみられるとよいと思います。なお持病などのため運動が制限される場合もありますので、そのような方は主治医の先生とよく相談しましょう。
③ 慢性疾患の治療や感染症の予防
各種の生活習慣病、心血管疾患などはフレイルの危険因子となりえます。これらの持病をお持ちの方はしっかり治療していきましょう。また感染症が重症化してフレイルに陥る場合もありますので、できるだけ感染症にかからないようにするのも大切でしょう。昨今の新型コロナウイルス感染症の影響で、マスクや手洗い・手指消毒などをはじめとした感染症対策はすっかり身近なものとなりました。これらの対策は新型コロナだけでなくさまざまな感染症の予防につながり、ひいてはフレイル予防にも役立つと考えられます。
④ 社会とつながりをもつ
人とのコミュニケーションが減っていくと、人間関係自体が面倒になり、ますます社会に出る意欲を失ってしまいます。このことがフレイルへとつながっていきます(社会的フレイル)。これを予防するために、できるだけ人とのつながりを持つようにすることが大切です。本来であれば、地域のボランティアや趣味のサークルに参加するなどが考えられますが、最近は新型コロナウイルス感染症の影響で自由な交流が難しくなっており、とても悩ましいところです。
・最後に
近頃は、いわゆる「コロナ禍」により運動をする機会や人と交流するといった機会などがめっきり減ってしまって、フレイルに陥ってしまう危険性が高い状態といえると思います。こういう時だからこそしっかり体を動かし、しっかり栄養を取り、人とのかかわりを大切にしてフレイル予防を心がけたいものです。フレイルについて理解し予防するということが、元気に歳を重ねていく一つのヒントになるのではないでしょうか。
参考文献
- フレイル診療ガイド2018年版
- サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂
- 日常診療に活かす診療ガイドラインUP-TO-DATE 2020-2021
- 日常診療に活かす診療ガイドラインUP-TO-DATE 2018-2019
- 今日の治療指針2019年版
- 今日の治療指針2018年版
- https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/index.html 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネットHP(フレイル(虚弱))
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089299_00002.html 厚生労働省HP(高齢者のフレイル予防事業)
- https://1682-kaigo.jp/health/000451/ 介護情報サイト「いろはにかいご」(フレイルとは|定義、サルコペニアとの違い、4つの予防法など)